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朝日新聞出版

私が真犯人です パソコン遠隔操作事件・鬼殺銃蔵の正体

初出:2012年11月2日号
WEB新書発売:2012年11月2日
週刊朝日

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 「警察・検察を嵌めてやりたかった、醜態を晒させたかった」「猟銃と包丁で完全武装して学校へおじゃまします。散弾とスラッグ弾合わせて100発あります」「幼稚園を襲撃してAを殺害する」……パソコンを遠隔操作した「なりすまし」ウイルス事件は、逮捕された4人が誤認逮捕だったと警察トップが認める、異例の経過をたどった。弁護士のもとに届いた真犯人からの「犯行声明」には、犯人像を浮かび上がらせるヒントが満載。本誌はその全文を一挙に掲載、犯人の実像に迫る重要なヒントをいくつも手にした――その内容とは?

◇鬼殺銃蔵とは何者か?/パソコン遠隔操作「なりすまし」ウイルス事件
◇真犯人のメール全文


鬼殺銃蔵とは何者か?/パソコン遠隔操作「なりすまし」ウイルス事件

 「真犯人でない方を逮捕した可能性は高い。そうだとすれば、おわびを含めた適切な対応を図る」
 警察庁の片桐裕長官は10月18日、一連のパソコン遠隔操作による「なりすまし」ウイルス事件で、大阪や三重など4都府県警が逮捕した4人は誤認逮捕だったと認めた。
 全国警察のトップが誤認逮捕を認める異例の事態になったきっかけは、「真犯人」と思われる人物から、TBSと、ネット上のトラブルに詳しい落合洋司弁護士のもとに届いた「告白メール」だった。
 落合弁護士のもとには「10月9日23時22分」にメールが届いた。しかし、当初、落合弁護士はそれに気づかなかったという。
 「TBSにもほぼ同じ内容のメールが届き、私のもとにも届いているはずだという報道機関からの問い合わせで、あらためてパソコンを検索したところ、迷惑メールボックスに入っていました」(落合弁護士)
 落合弁護士に届いたメールの全文は「真犯人のメール全文」をご覧いただきたいが、一部の犯罪予告で「鬼殺銃蔵(おにごろしじゅうぞう)」と名乗る人物のメールはこんな書き出しで始まる。

 〈現在報道されている大阪・三重の遠隔操作ウィルス事件について、私が犯人です。このメールには犯人しか知り得ない事実、つまり「秘密の暴露」が多く含まれているので、このメールを警察に持っていって照会してもらえば、私が本物の犯人であることの証明になるはずです〉


 落合弁護士はメールの内容を読んで、真犯人だという印象を持ったという。
 「投書やメールなどで捜査機関に寄せられる情報のうち、99%はイタズラや新聞記事の単なる受け売り。しかし、今回のメールでは自分が書き込んだ脅迫内容について非常に具体的に書かれています」(同)
 メールで犯人が関与を告白した事件は13件ある。このうち学習院初等科、部落解放同盟への予告など6件はそれまで表に出ていないものだった。「なりすまし」の手口も具体的に記述している。捜査当局はその後、このメールを送った人物が真犯人だと断定した。
 メール全文を見ると、犯人像や犯行の詳細が浮かび上がってくる。まず、犯行の目的はどこにあったのだろうか。

 〈「警察・検察を嵌(は)めてやりたかった、醜態を晒(さら)させたかった」という動機が100%です。なので、ある程度のタイミングで誰かにこの告白を送って、捕まった人たちを助けるつもりでした〉


 そして、捜査当局はその思惑どおりに動いてしまった。落合弁護士が語る。
 「誰かのパソコンを踏み台にして悪さを働きながら、その痕跡を極力残さない、あるいは、痕跡を消す手口はかなり以前からありました。しかし、利用された他人が逮捕されるようなことはなかった」
 また、情報セキュリティー会社ネットエージェントの杉浦隆幸社長もこう話す。
 「遠隔操作型の犯罪は1998年に始まりました。それを愉快犯的に使った点で新しい犯罪形態ではないかと考えています。警察を踊らせるのが目的だったようですが、警察がそのとおりに動いてしまったことも、これまでになかった特徴です」
 自分でウイルスを作成するなどコンピュータープログラムやネットに詳しい人物であることは容易に想像がつくが、では、このメールの文面から読み取れる犯人像はズバリ、どのようなものなのだろうか。
 「中学生、高校生という感じではない。文章の書き方から見てそこまで若くはない。20代から30代前半ぐらいの割と若い人ではないかと考えています。メールにもあるとおり、警察や検察に対する根強い反感を持ち、ネットの世界は自由という感覚の持ち主という印象を受けます」(落合弁護士)
 また、犯罪精神病理学が専門の東京工業大学名誉教授の影山任佐(じんすけ)氏はこう推測する。
 「年齢は10代後半から30代前半ぐらいではないか。特に思想的、宗教的な背景は感じられません。プログラムなど理数系には強いが、『suicide(自殺)』のスペルを忘れるなど英語や国語の力は弱い感じがします」

◎最初の『標的』に隠されたヒント
 メールでは、〈散弾で胸を撃って大穴を開けてやります〉〈スラッグ弾で頭を撃って首なし死体にします〉〈手足を切り落として宅配してやる〉――など変質的で、サディスティックな表現もかなり使っている。この点はどうなのだろう。
 「『鬼殺銃蔵』の当て字といい、小学生など幼い子どもを狙ったことといい、97年に神戸で起きた『酒鬼薔薇(さかきばら)事件』を連想させるような書き方です。ただ、残虐性は言葉の上だけのもので、事件を大きなものに見せるためのものではないか。警察を手玉にとっておもしろがっているようですが、それによって『スッキリした』というような感情表現は乏しい。事実を淡々と説明しているだけのような気がします」(影山氏)
 そして、影山氏がもっとも注目するのは次の点だ・・・

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