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朝日新聞出版

「リビング・ウィル」で意思を貫く 延命治療をしないという選択4

初出:2012年12月21日号
WEB新書発売:2012年12月21日
週刊朝日

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 無意味な延命治療を阻止し、穏やかな死を迎えたいという意思を貫くためにはどうすれば良いのか。がんの権威で終末期医療に詳しい大野竜三医師は、「リビング・ウィル」(終末期の医療・ケアについての意思表明書)を書き、書いたら家族にも話し、居間など誰の目にも触れる場所に置いておくことを勧める。コピーして署名・捺印するだけでもいい、大野医師が作った「リビング・ウィル」の見本例文も付いている。

◇書いたら家族の目につく場所に…
◇わたしたちの「平穏死」


書いたら家族の目につく場所に…

愛知県がんセンター名誉総長・大野竜三医師


 ピン・ピン・コロリ。それは中高年なら誰もが願う生き方でしょう。でもそう簡単なことではありません。現実的に60歳以上の日本人がコロリと逝くとしたら、心筋梗塞か、脳出血か、脳血栓かと思いますが、救急搬送されれば救命措置が施されるでしょう。高齢になって意識を喪失したり認知症で食事がとれない状態になった場合も、点滴や胃ろうなどで長く生き続けることが可能です。
 私が無理な延命に疑問を持ち始めたのは、20年ほど前にさかのぼります。当時は浜松医科大学で内科教授として医療教育の現場にいたのです。そこでは若い研修医たちが高齢で意識のない方々に一生懸命に延命治療を施していました。もちろん間違ったことではありません。医療は命を救うのが最優先です。でも、私はがん(白血病)が専門で、闘病の末、力尽きて最期を迎えられる患者さんを長年見てきただけに、違和感ある光景だったのです。若い医師が気管挿管をするときに「もうやめなさいよ」という言葉が、何度も喉元まで出かかりました。
 延命治療の中止に関する法律は日本にはなく、自宅で家族や友人に見守られて平穏に幸福に亡くなる方も少数派です。では、コロリは夢物語なのでしょうか?
 いいえ、実現する方法が、ひとつだけあります。「リビング・ウイル」です。
 「このような事態が起きたときにはこうしてほしい」という自分の意思を書き残すのです。生前遺言状などと訳されることがありますが、私は「終末期の医療・ケアについての意思表明書」という訳が適切ではないかと思っています。
 必ずしも中止だけを希望するものではありません。延命を希望する場合はそう書くこともできます。
 一般的な遺言書が死後に効力を発するのに対し、リビング・ウイルは生きている間に(脳死判定される前からでも)効力を発します。
 私は2000年ごろからリビング・ウイルによる生前意思表明を推奨していますが、実は他界した私の両親もこの考えに賛同し、リビング・ウイルを書き残していました。
 父は胆管がんを患い、3年間の闘病を経て01年に89歳で自宅で亡くなりました。近所のかかりつけ医に往診してもらい病状を把握してもらっていたため検視の問題も起きず、最後までボケなかったので、リビング・ウイルを提示するまでもありませんでした。
 ところが94歳で亡くなった母のときは違いました。直腸がんだったのですが、がんとは直接関係ない症状で緊急入院した後、急に認知症が進みました。入院の3、4カ月前までは自分で料理もするほどしっかりしていたのに、入院後1、2カ月で理性的な判断ができなくなってしまったのです。
 しかし入院前に本人が毛筆で書いていたリビング・ウイルを病院に渡すことで、無意味な延命治療はされませんでした。厳密にいえば水分と栄養補給の点滴が少しされたのですが、それでももしリビング・ウイルがなければ母が苦しむ時間はもっと長びいたことでしょう。母は点滴が大嫌いでしたし、高齢になると血管も細くなり針が入りにくく針痕から出血することもあります。よけいな苦痛をとりのぞくことができた、と身をもって感じました。
 では、実際にどう書けばいいのでしょうか・・・

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