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医療・健康
朝日新聞出版

祖母を殺して私も死のう 「早すぎる介護」が呼び込む悲劇

初出:2013年4月19日、4月26日号
WEB新書発売:2013年4月26日
週刊朝日

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 老親の介護――。中高年には身近な悩みだが、実は20、30代から、親や祖父母の介護に明け暮れる毎日を過ごす若者がいる。「早すぎる介護」のため、恋愛や結婚を諦めたり、人生を狂わされ、ついには「祖母を殺して、私も自殺したい」とまで思いつめる人もいる。若い世代が、介護のために自分の人生をあきらめたり、あるいは介護を担わないことで無用の罪悪感を持ったりしないためには、いったいどうすればいいのだろうか。高齢化社会の暗部をえぐるルポ。

◇第1章 「祖母を殺して私も死のう…」[現実編]
◇第2章 「家族だけならできなかった」[処方箋編]
◇第3章 働きながらの介護には小規模多機能施設/井上信太郎


第1章 「祖母を殺して私も死のう…」[現実編]


 「祖母を殺して、私も自殺しようと思ったこともありました」
 介護を振り返り、河村美樹さん(仮名)がつぶやいた。まだ30代前半。介護がスタートしたのは、20代後半のことだった。
 一般的には、介護を担うのは50代以上の人が多い。実際に、厚生労働省の「平成22年国民生活基礎調査の概況」を見ても、40歳未満で要介護者と同居する主な介護者は、全体の約3%と低い。しかし、「もっと多く、若い人が介護をしているはず」と指摘する声がある。23歳から認知症の父を介護し、『笑う介護。』(成美堂出版)の著書もあるライターの岡崎杏里さん(37)は、
 「若い人は、父親や母親と一緒に介護している人が多い。そういう人たちは、数字には反映されません。実際、私のツイッターやブログを通して、介護している若者から、『私も介護しています』と、断続的に連絡があります」
 老老介護や遠距離介護などの問題点は指摘されつつあるが、働き盛りの若者の介護は、絶対数が少ないためか、その実態はあまり知られていない。どんな状況で、どんな問題を抱えているのか、まずは話を聞いてみた。
 先の美樹さんが、隣の家に住む母方の祖母の異変に気がついたのは、2005年のころ。美樹さんは不況のあおりと、腎臓に持病があったため、就職をせず、90代の祖母の仕事の手伝いをする日々を送っていた。
 祖母は地主で、土地の管理をしていたため、来客も多い。しかし、そのころから人と会いたがらなくなり、美樹さんが対応することが多くなった。さっき話したことをすぐに忘れたり、自分が片付けた物の場所がわからなくなったり、頻繁に鍋を焦がしたりするようになるなど、認知症の症状が出始めた。06年には転倒することも多くなり、何かあると一日に数十回も誰かに電話をかけてしまう。祖母から目が離せなくなった。
 耳の聞こえない両親を持つ美樹さんにとって、祖母は、成長過程に欠かせない存在だった。保護者会や学校行事にも必ず参加し、旅行にも連れていってくれた。大好きな祖母の家に遊びに行くのは昔からの日課だったが、祖母の認知症が進むにつれ、それは義務感を伴うようになっていった。
 07年、美樹さんが腎臓病の検査のために1週間入院して戻ると、祖母は寝たきりになっていた。母は、なぜか介護することを嫌がり、最低限のことしか手伝ってくれない。美樹さんの妹は、あまり祖母とは仲良くなく、父はすでに他界していた。週に2回、ヘルパーが来てくれてはいたが、必然的に主に美樹さんが介護することになった。
 「今考えると、本当に暗黒時代です」
 毎日、食事を用意し、食べさせる。掃除、洗濯をすませ、トイレに連れていく。入浴の介助も必要で、少し外出して戻ると、祖母が失禁していることもあった。
 お金に困ることはなかったが、祖母に財産があることが、親戚とのトラブルを引き起こした。美樹さんのおじで、祖母の息子が、祖母の通帳を持っていってしまったのだ。
 返すように催促しても、一向に戻ってこない。最終的には・・・

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