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医療・健康
朝日新聞出版

がん細胞だけ狙い撃ち! 末期患者にも朗報 新治療法の最前線

初出:2013年6月7日号
WEB新書発売:2013年6月7日
週刊朝日

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 従来の抗がん剤の弱点だった副作用を抑制し、がん細胞だけをやっつける新しい「分子標的薬」や「抗体医薬」が次々と承認され、健康保険も使えそうだ。副作用が少なく、免疫力を強化する「がんワクチン療法」も臨床試験が進む。一方、日本独自の放射線医療技術で、正常な細胞を傷つけずにがん細胞だけを狙い撃つ「ホウ素中性子捕捉療法」の開発が進む。これら最先端治療法の仕組みや効果とは何か、国立がん研究センターなどの専門家がわかりやすく丁寧に説明する。

◇第1章 がん遺伝子やたんぱく質の解明が進んで副作用を抑制
◇第2章 免疫細胞を人為的に活性化、治療法がないがんにも光明
◇第3章 日本が独走する新医療技術、正常細胞に影響ない中性子
◇アンジーが乳房を予防切除 女性の皆さん、早まらないで



第1章 がん遺伝子やたんぱく質の解明が進んで副作用を抑制


 近年、医薬品が進化してきた。その代表格といえるのは、抗がん剤である。
 最初の抗がん剤は、もともと毒ガスをベースに作られた。毒ガスが持つ細胞を殺すメカニズムを応用して、がん細胞を攻撃する抗がん剤としたのが始まりだ。
 その後、毒性のある植物をもとにしたり、プラチナ(白金)を使ったりしたものが多く登場したが、これらに共通する弱点は、がん細胞をたたく効果がある半面、正常な細胞も傷つけてしまう副作用が強かったことだ。
 こうした抗がん剤も効果があり、現在でも標準的な治療法として使われている例は多い。
 とはいえ、副作用を抑えつつ、効率よくがん細胞をやっつけることはできないか――がん治療の新薬開発で大きな課題だった。そこで登場したのが、がん細胞のみを狙い撃つ「分子標的薬」や「抗体医薬」と呼ばれる新しいタイプの薬だ。どちらも、この十数年、がん細胞のしくみが解明されるにつれて開発が加速してきた。
 分子標的薬とは、がん細胞だけを攻撃したり、増殖を止めたりする薬だ(次の図)。従来の抗がん剤に比べて、正常な細胞に与える影響は少ない。


 抗体医薬は、がん細胞の表面に付いて、人間が本来持っているがん細胞を殺す免疫細胞を呼び込み、がん細胞を攻撃するものだ(次の図)。


 健康保険が適用できる薬を次の表にまとめた。5月24日からの新顔も含めた。液剤や錠剤といったさまざまなタイプがある。


 新薬を長年にわたって取材する医療ライターの小沼(おぬま)紀子氏は、こう話す。
 「現在、がん細胞だけにあらわれる遺伝子やたんぱく質の研究が進み、それを狙い撃つ薬が盛んに開発されています。たとえば、肺がんの患者では、がんの組織型だけでなく、患者の持つ遺伝子の状態によって、がんのタイプが複数に分かれています。そのタイプに合った薬を投与することで、それぞれの患者に効きやすい個別化医療が急速に進んできました」
 なかでも医師の注目を集めている新薬のひとつは、分子標的薬で肺がん治療薬の「ザーコリ」だ。一般名はクリゾチニブという。
 がん細胞にある「ATP」というエネルギーが、異常な遺伝子による産物「ALK融合たんぱく」と合体すると、がん細胞が増殖してしまう。ザーコリは、この動きをブロックして、がん細胞が増えるのを抑制する。エネルギー源も絶つことで、がん細胞は死ぬ(次の図)。


 がん研有明病院の畠(はたけ)清彦血液腫瘍科部長はこう話す。
 「10センチ以上の腫瘍ができ、呼吸困難だった患者が、ザーコリを投与した後、わずか3〜4日で息苦しさが取れ、1週間程度で自力で歩けるようになった例もあります・・・

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