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医療・健康
朝日新聞出版

認知症を治す「夢の新薬」 実用化近づく新治療薬4種の期待される効果

初出:2014年10月17日号
WEB新書発売:2014年10月16日
週刊朝日

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 認知症は発症のメカニズムが複雑なため、これまで進行を遅らせる薬はあっても、症状を止め元の状態に回復させる根本治療薬はなかった。だがiPS技術を用いた創薬研究が進むほか、別の病気の薬が認知症に効く可能性があるなど薬をめぐる研究は日進月歩で、「夢の新薬」の早期実用化が期待される。2021年発売を目指す飲み薬「T―817MA」、実用化にあと一歩の注射薬「ソラネズマブ」、開発中の飲み薬「AZD3293」、臨床試験中の飲み薬「LMTX」はどんな効果があるのか。既存薬との併用法とは何か。認知症治療薬の最新研究成果を紹介する。

◇iPS技術で「夢の認知症新薬」
◇早期の認知症で進行抑制が期待
◇新薬と既存薬を併用する方法も
◇体格がよい人は薬が効きやすい
◇アミロイドβの蓄積量がわかる「PET検査」で発症予測へ


iPS技術で「夢の認知症新薬」

 認知症の根本治療薬を作る試みは、世界各国でおこなわれている。だが、「これまで多くのメーカーが取り組んできたが、開発がうまく進んできたものは少ないのが現状」(ある製薬会社幹部)だという。
 その理由の一つが、発症のメカニズムがいまだに明らかになっていないことにある。アルツハイマー型認知症(以下、単に認知症と呼ぶ)は、アミロイドβというタンパクが脳内にたまり、神経細胞が死んでしまう病気だといわれている。しかし、アミロイドβがたまらない認知症もあり、実際に患者の脳の中で何が起きているのか、わからないことが多いのだ。
 この難問に答えが出れば、新薬開発は大きく前進する。近年、それを可能にすると期待される技術が登場した。日本発の「iPS細胞」だ。
 iPS細胞と聞くと、再生医療のイメージが強い。最近では、眼の難病患者に対し、患者の皮膚から作ったiPS細胞を網膜の細胞に変化させ移植するという、世界初の手術が実施され話題になった。だがiPS細胞の可能性は再生医療だけにとどまらない。病気のメカニズムを解明し、効果がある薬を開発する研究が、難病を中心に盛んに進められているのだ。



 京都大学iPS細胞研究所で認知症を研究する井上治久教授はこう語る。
 「患者さんの神経細胞を使って解析すること、できれば細胞が減ったり死んでしまったりする前にそれを止める薬を探すこと、そして病態の違いに応じた治療法を考えること。この三つが、iPS細胞によって可能になると考えています」
 井上教授らは、認知症患者の皮膚から作ったiPS細胞を用いて、患者の脳の神経細胞を再現することに成功。2013年には、魚に含まれる脂肪酸の一つであるDHA(ドコサヘキサエン酸)に、神経細胞死を抑制する効果があることを発見した。さらに最新の研究で、患者によってアミロイドβのたまる場所が一様でないことを細胞レベルで明らかにした。
 実際に薬剤を使った研究も進んでいる。同研究所は今年3月から、製薬会社と共同である新薬を用いた研究を開始したと発表した。それが、富士フイルムとグループ会社の富山化学工業が開発する「T―817MA」という薬(錠剤)だ。
 この薬には脳の神経細胞を強力に保護する働きがあり、ラットによる実験でも、神経細胞死を防ぐ効果が確認されている。進行を緩やかにさせる従来の薬とは異なり、認知機能が悪化するという認知症の進行そのものを抑制する根本的な作用が期待できる(次のグラフ参照)。そのため、現在開発が進む新薬のなかでも「画期的な治療薬になるかもしれない」(ある認知症専門医)と大きな期待が寄せられているのだ。


 富山化学工業の泉喜宣総務担当部長は言う。
 「この薬は、08年からアメリカで実施された治験(人を対象にして治験薬の安全性や有効性を確かめる試験)で、ある程度病気が進行した中等度の方に、より有効である可能性が認められました。現在・・・

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