高齢化が進み寿命が延びた。会社などの定年も延びる傾向にあるとは言え、「老後」は長い。定年後の金銭面について、ファイナンシャル・プランナー(FP)の森田悦子氏と、介護の取材が長く、共著「介護破産」などがある村田くみ氏が解説する。たとえば年金の受給開始は原則65歳だが、70歳まで遅らせれば受給額は4割以上増える。損か得かは寿命次第だが、分岐点は何歳だろう? 65歳から70歳までの生活費はどうしたらいいだろう? 退職金の運用は手堅さ一辺倒でいいのか、介護離職は不可避なのか…… これまで言われてきた「5つの常識」は本当なのか、再点検したい。
◇第1章 年金いつから?/65歳からすぐに受け取り開始→70歳まで待てば、受給額1・4倍
◇第2章 退職金の運用は?/預貯金など手堅い運用一辺倒で→長い老後、成長性の視点も必要に
◇第3章 終のすみか選びは?/高額な施設入居で充実の暮らし→在宅サービス活用し、自宅で最期も
◇第4章 介護費用のムダは?/ケアマネジャーに任せきり→自治体の支援策など情報収集も
◇第5章 介護離職は不可避?/「退職して親と向き合おう」→巨額の減収、自らの老後も考える
◇第7章 夫婦で家計見直し、妻の眼と夫の眼で/経済ジャーナリスト・荻原博子さん
定年後は65歳から年金暮らし。今までのそんな常識を見直し、受け取り計画を再設計してはどうだろうか。
受給開始は原則65歳だが、時期を遅らせる繰り下げ受給制度がある。先送りの代わりに年金額を増やせる。
時期を1カ月遅らせるごとに、年金は0・7%増える。1年遅らせると8・4%(0・7%×12カ月)増え、最長で70歳までの5年間可能。通常の受給額より、42%(0・7%×60カ月)増える。たとえば、本来の年金月額が20万円の場合、5年繰り下げると42%増の月28万4千円を、生涯受け取れる。
繰り下げ受給を検討する際の心配事は、「損をしないのか」と「繰り下げ待機中の生活費」だろう。
65歳からの通常受給と繰り下げ受給のどちらが有利か。最終的には寿命次第だが、長生きするほど繰り下げが有利で、分岐点は約12年になる。70歳まで繰り下げた場合、約82歳の時点で65歳からの通常の受給額を総額で上回る。逆に、そこまで長生きできなければ、総額で損する計算だ。
70歳まで繰り下げようと受給開始を待つ間に死亡した際、遺族が年金を受け取れなくなることはない。金額は増えないが、遺族は65歳からの通常の支給額を未支給年金として請求できる・・・