世界の景気を引っ張ってきた中国という『特急車』が視界不良で立ち往生している。行く手には欧州債務危機という火山、さらに進むと世界同時不況の活火山が待ち受ける。足元には不動産バブルの底なし沼が迫り、インフレが猛威を振るう『車内』では、民衆の不満が爆発寸前だ。共産党指導部はこの窮地を切り抜けることができるのか。
〈1〉輸出・生産/製造業の崖っぷち
〈2〉不動産/バブル崩壊の瀬戸際
〈3〉社会矛盾/いびつな格差と腐敗
〈4〉日本企業/中国依存の明と暗
〈5〉経済政策/中国政府の正念場
欧州危機の余波で瀬戸際に追い込まれた中国製造業の実情に迫る。
◎ダメージはリーマン超え確実!? 金融引き締めと欧州危機が襲来
欧州危機が中国製造業に重くのしかかっている。金融引き締めで経営環境が厳しくなっていたなかで、受注減となって襲いかかり、繁栄を謳歌してきた「世界の工場」は存亡の危機に瀕している。
「欧州からの受注はロシアを除くと、壊滅状態。特にデンマークは30件近くあったシルク製品の注文がゼロになってしまった」
北京市で欧州向けに日用雑貨を販売する会社の財務担当者は発注書を前に頭を抱える日々だ。2008年までは年間80件あった注文が20件程度に減少し、07年には約6億円に達した売上高に至っては約60分の1の1000万円に落ち込んだのだ。
異変が起こったのは09年頃。全盛期は年末は残業で帰宅できない日々が続いていたが、この頃から「商品が売れなくなったので価格を下げてほしい」との要求が増えた。金額が折り合わずオーダーを断る例も出てきた。
折悪しく4兆元対策をはじめとした一連の景気刺激策の副作用が表面化、10年からは金融引き締めに入っており、カネが借りられない中小企業は特に経営環境が急速に厳しくなっていく。
「ただでさえ中国国内に競合が増えており、利幅は小さくなるばかり」と悩みは深まるばかりだ。
中国にとって、欧州は米国や日本を超える最大の輸出先だ。05年以降、輸出全体の2割近くを占めており、電機・機械や軽工業品が主力。欧州もリーマンショック以降、中国への依存を深めており、最大の輸出先となった。
その欧州を覆う暗雲に、製造現場は深刻さを肌身で感じている。
中国内3000社の進出企業を抱える香港工業総会の劉展ラウ(スタンリー・ラウ/「ラウ」は「さんずい」に景と頁)副主席によると、昨秋以降、欧州からの受注は20〜30%、米国も5〜20%落ちており、「このままのペースだと進出企業の30%が3〜5年以内に倒産するか、規模縮小を余儀なくされてしまう」という。
iPhoneの製造を請け負う世界最大のEMS(電子機器受託製造)、鴻海精密工業は欧州危機を受け、東莞市に予定していた70億円規模の工場投資を見送ったとされる。
東莞市の大手EMS、王氏港建科技の王忠桐CEOは「今回の危機はリーマンショックのように短期的なものではなく、5年は続く『戦争』のようになるだろう」と断言する。同社は2000年代後半から2ケタ成長を続けていたが、今年は5%を維持するのがやっとと見ている。
苦境を数字で裏付けるのが、中国物流購買連合会が毎月まとめている製造業PMI(購買担当者指数)の落ち込みだ。昨年11月、製造業の景況を示すこの指数が、景気拡大と後退の分岐点とされる50を2年9ヵ月ぶりに切った。12月には50・3と持ち直したが、「最大の繁忙期である春節(中国の旧正月)が例年より早いことで需要が反映されただけ。それでこの数字では弱い」(在香港アナリスト)。
しかも、PMIはより信憑性が高いとされる英金融大手HSBCもまとめており、その数字は12月でも48・7と50を下回ったままだ。
◎最低賃金は毎年2割増 それでも不足する労働者
「まるでワーカーのために会社をやってるみたいですよ」
深セン(シンセン/「セン」は土に川)市北西部でおもちゃ製造業に携わる陳謀傑総経理は、ベルトコンベアで運ばれてくる人気アニメキャラクターを箱に詰める作業員を横目にこうこぼした。
製造業の危機に拍車をかけているのが、人員確保の問題だ・・・
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世界の景気を引っ張ってきた中国という『特急車』が視界不良で立ち往生している。行く手には欧州債務危機という火山、さらに進むと世界同時不況の活火山が待ち受ける。足元には不動産バブルの底なし沼が迫り、インフレが猛威を振るう『車内』では、民衆の不満が爆発寸前だ。共産党指導部はこの窮地を切り抜けることができるのか。[掲載]週刊ダイヤモンド(2012年1月21日号、22700字)
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