日々進化する医療の中で、薬は最も変化が激しい分野の一つだ。10年もたてば、選ばれる薬や剤形、投薬頻度が様変わりすることも珍しくない。自分や家族が病気になったら、できるだけ効果の高い薬を選びたいもの。ここ数年で登場した新薬から現在開発中の次世代薬まで、患者ニーズの高い病気を中心に、最新情報を紹介する。
◇第1章 難病に挑む新薬の最前線
・分子標的薬で、がんから生還!
・〈がん〉 効果が大きく副作用が少ない
・〈関節リウマチ〉 関節破壊をストップ!
◇第2章 開発競争続く注目の病気
・〈糖尿病〉 低血糖・肥満にならないインクレチン薬
・〈心血管〉 新脳卒中予防薬は納豆OK
・〈眼〉 失明原因の緑内障に光明
・〈痛風〉 世界で40年ぶり新薬登場
・〈COPD〉 即効型の登場で治療は充実へ
◇第3章 家族を守る予防&治療薬
・〈子どもの病気〉 製品・情報で最貧国レベル!?
・〈女性に多い病気〉 女性が気を付けたい病気と薬
・〈精神と心の病〉 うつ病100万人時代に突入
・〈認知症〉 アルツハイマー病治療に新潮流
・〈ペットの病気〉 知っておきたい動物治療薬
◇第4章 全身を調える漢方薬の実力
・上手な漢方薬の使い方
過去10年間で医薬品は大きく進歩した。薬の効果もさることながら、製薬会社の開発方針も変わり、薬で治療できる病気が増えている。『不治の病』とされた病気が薬で治る時代になってきた。
ガリガリガリ! 隣に駐車してある車をこする音がした。
埼玉県・川越在住の会社員、栗原新吾さん(55歳)は埼玉医科大学総合医療センターの駐車場でため息をついた。運転には自信があったのに、駐車スペースから車を出そうとしたらこのありさま。
「ああ──。やっぱり自分は動揺しているのか」
この直前、慢性骨髄性白血病という病名を告げられていた。
慢性骨髄性白血病は、遺伝子の異常が原因で発症する血液のがんだ。骨髄には、白血球や赤血球といったさまざまな血液細胞のもとになる「造血幹細胞」がある。この造血幹細胞ががんになり、白血球をたくさん作り出してしまうのだ。年間の発症率は人口10万人に1〜2人。成人の白血病全体の約20%を占める。
中性脂肪が高かった栗原さんは、近所のクリニックで高脂血症の治療を受けていた。2011年6月の血液検査で、異常が見つかり総合医療センターの血液内科教授、木崎昌弘医師を紹介された。
木崎医師の元でもう一度検査してみると、慢性骨髄性白血病を発症していることが確認された。
◎白血病の生存率90% 常識を変えたグリベック
正直なところ、栗原さんが持っていた白血病のイメージは、「不治の病」というものだった。
木崎医師から詳しい説明を受けると、急性は危ないが、栗原さんは初期段階の慢性だという。「昔は骨髄を移植しなければならなかったが、今はいい薬があるからそれで治療できます」。その言葉に少し安心した。
治療が始まった。抗がん剤の「タシグナ」を1日2回、1回2カプセル服用した。病気には何の症状もなく、心配していた薬の副作用もない。これまでの生活と何も変わらなかった。
薬を飲み始めておよそ1カ月、血液検査をしてみると、白血球の数はすでに正常値に戻っていた。その後も経過は良好。発症前と違うのは、自分の体を案じる家族の勧めに従って『休肝日』が増えたことくらいだった。
「薬の進歩でここまで治療が変わった病気は他にないだろう」──。
木崎医師は多くの慢性骨髄性白血病を発症した患者を診て、つくづく実感しているという。
栗原さんがイメージした通り、かつては不治の病で、有効な薬が存在しなかった。1980年代半ばに抗がん剤として、インターフェロンが登場し10〜15%の人が治るようになった。
90年代に入ると造血幹細胞の移植が行われるようになり、インターフェロンによる治療と組み合わせることで50〜60%が治るようになった。もっとも移植手術は、高齢者など体力がない人には難しいものだった。
治療が大きく変わったのは01年、「グリベック」という薬が発売されたことだった。栗原さんが服用しているタシグナの先代品である。グリベックは登場するや、白血病の進行を劇的に抑えた。生存率はなんと9割にまで高まった。20年前には、ほとんど治らなかった病気がほぼ治せる病気へと様変わりした。
◎薬の進歩を象徴するハーセプチンの効果
01年は薬物治療の進歩を象徴する年だった。乳がん治療に高い効果がある「ハーセプチン」もこの年に登場している。
小川静子さん(仮名・63歳)は、05年12月、慢性骨髄性白血病と診断された。グリベックで治療を行った結果・・・
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日々進化する医療の中で、薬は最も変化が激しい分野の一つだ。自分や家族が病気になったら、できるだけ効果の高い薬を選びたい。ここ数年で登場した新薬から現在開発中の次世代薬まで、患者ニーズの高い病気を中心に最新情報を紹介する[掲載]週刊ダイヤモンド(2012年4月28日―5月5日号、32300字)
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