スポーツ
毎日新聞社

道なき道 甲子園への指導論――名監督5人の実践

2011年07月14日
(7200文字)
毎日新聞

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 8月6日から始まる第93回全国高等学校野球選手権大会。甲子園出場を可能にするには、練習量だけでなく質での工夫も不可欠だ。松坂大輔や松井秀喜の力を最大限に引き出した指導法とは? 2010年度の甲子園塾で講師を務めた「名将」5人が試行錯誤の末に編み出した「独自の指導法」に迫る。


横浜 渡辺元智監督
好投手育てる「おり」

 マウンドに立つ投手の両サイド、後方の三方に陸上競技用のハードルが置かれた。「何が始まるのか」と首をかしげる受講者たち。渡辺元智(66)が涼しい顔で、「正しい投球フォーム作りに非常に有効な練習法」と説明した。

 2010年12月、大阪市の淀川工科グラウンド。日本高校野球連盟が若手指導者育成のため08年度から毎年開催している甲子園塾でのひとこまだ。横浜(神奈川)を率いての輝かしい実績だけでなく、多くの人材をプロ野球界に輩出してきたことでも知られる渡辺。特に近年は松坂大輔(レッドソックス)、成瀬善久(ロッテ)、涌井秀章(西武)ら好投手の育成が際立つ。
 
 その秘密の一端が、この独特な練習法にあった。通常は防球ネットで三方を囲むという。幅は投手板(約61センチ)をわずかに上回る程度。後方も腕を伸ばせば、すぐに触れるほどの位置にある。「狭いおり」は何を意味するのか。

 テークバックの際、右投手が一塁方向、左投手が三塁方向に腕を動かし過ぎるとネットに邪魔されて投げられない。後方に腕を伸ばし過ぎても同じことだ。渡辺は「遠回りせずに力のロスが少ない腕の振りを、自然と覚える」と言う。

自然界の動きを参考に

 投球は弓の原理に例えられることがある。鋭い矢を放つようにいかに球へ力を伝えられるか。ただ、かつては力を蓄えることに主眼を置き、不必要に背中側へ腕を回してから投げるフォームが「剛球投手」の証しである時代もあった。

 だが、科学的分析も進んだ近年は、こうしたフォームは腕の振りに無駄な動きが生じ、一試合を通じて安定した投球をすることは難しいと見られている。現在は野手のように小さく振りかぶった位置から、鋭く振り抜く投げ方が主流だ。

 涌井のフォームなどはこの典型だろう。その涌井も、この「おり」から巣立った。「リーチが長い分、余計な腕の動きが多かった」と渡辺は振り返る。フォームが乱れてきたと見ると、この練習法で修正させた。

 「自然界に見られる動きが、最も理にかなっている」が渡辺の持論だ。ゴリラやチンパンジーが歩き回るさまを見ると、背中、膝をやや折り曲げている。「捕球の理想的な動作」と言う。そうした観察眼から、「投球前の姿勢は、やや前傾で赤ん坊をそっと抱くような感じ」などと指導する。投球には下半身の動きも重要だが、これはスケート選手を参考にしてきた。

会話にメールを活用

 ただ、技術面では「理論的」であることを追い求めてきた渡辺も昨今の選手との接し方については頭を悩ませ続けている。血気盛んなころはスパルタ指導で知られた。「選手が脱出できないように」と伊豆大島で合宿したこともある。

 だが、「最近の選手は自分が納得しないと動かない。言葉が心に届いていない」と感じ、7年ほど前から携帯電話のメールを活用して会話のきっかけを作ってきた。・・・

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道なき道 甲子園への指導論――名監督5人の実践
210円(税込)

8月6日から始まる第93回全国高等学校野球選手権大会。甲子園出場を可能にするには、練習量だけでなく質での工夫も不可欠だ。松坂大輔や松井秀喜の力を最大限に引き出した指導法とは? 2010年度の甲子園塾で講師を務めた「名将」5人が試行錯誤の末に編み出した「独自の指導法」に迫る。[掲載]毎日新聞(2011年1月30日〜2月3日、7200字)

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