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特集 【トピックス】舞台「星回帰線」出演
向井理、舞台でしか得られない達成感や高揚感がある

2016年9月20日更新
写真:向井理=安田新之助撮影 向井理=安田新之助撮影

 気鋭の劇作家、蓬莱(ほうらい)竜太の舞台「星回帰線」(ほしかいきせん)が、10月2日に東京芸術劇場 シアターウエストで開幕し、その後、愛知、札幌、京都など各地で公演される。蓬莱の最新作に主演するのは、向井理。舞台出演は3年ぶりとなる向井が大阪市内で会見を開いた。(フリーランスライター・米満ゆうこ)

 崩壊寸前の人間の関係性やその心の揺れを、鋭くかつユーモラスに描くのが蓬莱作品の特長だ。「蓬莱さんと一緒に作品を作ってみたいという思いを、何年も前からご本人にぶつけていました。彼の作品は、いつも日常を見ているようで、突拍子がない出来事は起こらず、どこか身近に感じられます。10年近く蓬莱さんの作品を見続けてきて、ずっと見る側でしたが、いつも作品に巻き込まれていく感覚があって。それは蓬莱さんのパターンだと思います。観客が会話に参加しなくても、舞台の中にいる感覚になるような、良くも悪くも(心に)傷をつけられる作品になると思います」

 舞台は北海道の苫小牧市で、天体を観測しながら自給自足の生活を営むスローライフのコミュニティー。向井は、そのコミュニティーの代表でかつての恩人を訪ねる三島という男を演じる。医師で仕事や生きることに悩んでいた三島は、そのコミュニティーで生活し始め、人気者になる。しかし、生活をするにつれ、コミュニティーの現状が最初のイメージとはかけ離れていることに気づき、恩人からも嫉妬され、ドロドロとした複雑な人間関係に巻き込まれていく。「共同体で生活している、社会にあまりなじめない人々の物語。人間関係が破綻(はたん)していき、どうやって再生するのか、もしくはしないのか」と向井。

 嫉妬や反感などネガティブな感情が渦巻く人間関係。誰しもそういう状況に身を置いた経験はあるだろう。「僕はあまり意識したことはないですし、作品で起こるような劇的な経験もありません。でも、社会に出れば、少しは感じることはあると思うんです。多かれ少なかれ人間は業や欲は持っているものだと思います。今回7人という少ないキャストですが、観客は7人のうち誰かを自分に置き換えて見ることができると思う。業や欲、嫉妬などは、普段、実は無意識に感じていて、僕も演じていく中で気づくのかもしれませんね」

 現実では、そういった人間関係に対処するために、向井は言葉を大切にしているという。「言葉はやっぱり難しいなと思っていて。自分の思考や感覚などすごく抽象的なものを具現化しないと伝わらない。だから、すごく言葉を選びますね。いろんな言葉をチョイスするし、選択肢として、いろんな言葉を持っていなくてはいけない。それでも足りないと思うんです。人によって言葉の意味は違うし、白といってもすごくきれいな白もあれば、生成りのような白もある。考えすぎると何も言えなくなっちゃいますが、すごく難しいことを日々やっているんだなと。自分が誰かとコミュニケーションをとる中で、こういう風に言ったつもりでも相手がそう受け取っていなかったり、逆に相手から言われた言葉を自分の中で解釈しても、相手はそうだとは思っていなかったり、勘違いで人間関係は良くも悪くも変わっていく。舞台でも、細かい感情の機微みたいなものが伝わる作品になればいいですね」

 取材では、一つ一つの記者の質問に対して、理路整然と、躊躇(ちゅうちょ)なくスラスラと答える姿が印象的だった。「作品の説明をするときも100%正解の説明の仕方はないと思うんです。でも、そこを目指さないといい伝わり方はしない。相手がどう捉えるかをいつも考えないといけないなと思います」

 確かに、100%伝わることは不可能に近く、人間の受け取り方は千差万別だ。コミュニティーで人気者だった三島が、積み重なる人間同士の齟齬(そご)で刻々と変化していく。その不穏な空気感は蓬莱作品にはつきものだ。「今回はキツイ役になるだろうと。三島が信頼した人に裏切られ、それで終わるわけではない。物語にはその先があるので、それをずっと繰り返し演じるのはすごく大変です。以前も似たような役を舞台でやったことがあるのですが、ご飯も食べられないぐらいへこむことが多かった。でもそこまでしないと、いい作品はできないので、今回も大変な役にはなりそうです。楽しみと不安がありますね」

 年に1本は舞台に出演したいと公言している。「僕は、舞台はそんなに好きという感じではないんです(笑)。どっちかと言うと、やらなきゃいけないなと。まだ3本しか出演していないんですけど、毎回、初日の幕が開く前は吐きそうになる。『何でこの仕事を受けたんだろう』と3回中、3回思っているんです。でも終わってカーテンコールであいさつして、千秋楽を迎えるともう一度やりたいなと思う。舞台でしか得られない達成感や高揚感があるから、年に1本はやりたいんです。修業みたいな体験で、やりたいより、やらなきゃなという思いが強いですね。蓬莱さんにも飲みの席で、吐きそうになるという話をしたんですが、『あ、そう』としか言われませんでした(笑)」

 映画やドラマでも第一線で活躍し続ける。仕事はいくらでも選べる立場にあると思われるが、意外にもマネジャーが仕事を選ぶという。「選んでもらったり、声をかけてもらったりして仕事をやらせていただくスタンスです。でも、僕の仕事は基本的には選ばれないとできない仕事だと思っています。オーディションでもオファーでも、誰かの中から選ばれて話が来ることだと思いますので、単純にありがたいですし、もちろん責任も生まれます。そういって声をかけて下さる方がいるから、仕事になって、ありがたくお引き受けするんです」。今回の舞台で、向井自らが蓬莱に働きかけたことは、かなり珍しいそうだ。「舞台に限らず、映画やドラマでも自分から積極的にやりたいといったことはないかも知れません。でも今回は、蓬莱さんがいたからこそやりたかった。蓬莱さんは、わりとあてがきをするんですよ。蓬莱さんが率いる劇団『モダンスイマーズ』にもすごく酒好きの人がいるんですけど、その人が酒好きの役になっていたりとか(笑)。今回も、もちろん100%ではありませんが、あてがきで、蓬莱さんが思う僕だったり、僕のような人間を作ったりして、むしろそれをどう壊していくのか演出していただきたいので、できるだけお会いしていろんなことを話すようにしています」

 さらに、楽しみなのは、いつも蓬莱の作品を見ている側だった向井が、観客の顔を見る立場に変わることだという。「終演後、お客様がどういう表情なのかが見たいんです。蓬莱さんの作品は、ただ普通に拍手するという感じではないことが多いので、すごくいい舞台だなと思うんです。面白かった、楽しかっただけではない、何かを持って帰ってもらえる舞台にしたい。作品がイヤだと思う方もいるかも知れないですけれど、エンターテインメントはいろんな感情を動かす仕事だと思うんですね。喜怒哀楽だったり、嫌悪感だったり、多様な感情を動かすもの。それを少しでも動かせればいいですし、ちゃんと伝えられるようにしたいんです」

 東京芸術劇場 シアターウエストをはじめ、ロームシアター京都サウスホールなど、こぢんまりとした空間で上演される。「蓬莱さんが作るものは、会話劇が多いですし、その空気感や何かが壊れていくシーンは、見ていて音がするときがあるんですよ。今、ビシビシといったなと。それは大きすぎる箱(劇場)だと聞こえない。小さい箱だと、演者の息づかいやため息、呼吸、拍動まで聞こえるようで、皆がその世界観に入り込みやすい。シアターウエストはとてもコンパクトなんです。こっちとしても逃げ場がなく、お客さんも逃げ場がないほうが、傷つきやすいのかなと思います」。深い傷、引っかき傷、すり傷。果たして、どんな傷を私たちにつけてくれるのか。その日を心して待っていたい。

【フォトギャラリーはこちら】

◆パルコ・プロデュース公演「星回帰線」
《東京公演》2016年10月2日(日)~30日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト
※10月1日(土)プレビュー公演
《愛知公演》2016年11月2日(水)~3日(木・祝) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
《札幌公演》2016年11月5日(土)~7日(月) 道新ホール
《新潟公演》2016年11月11日(金)~12日(土) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
《京都公演》2016年11月17日(木)~20日(日) ロームシアター京都サウスホール
《広島公演》2016年11月22日(火)~23日(水・祝) JMSアステールプラザ 中ホール
《北九州公演》2016年11月26日(土)~27日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
《鹿児島公演》2016年11月30日(水)~12月1日(木) 鹿児島文化市民ホール・第2

⇒内容については公式ホームページなどでご確認下さい。
http://www.parco-play.com/web/program/kaikisen/

《筆者プロフィール》米満ゆうこ 「三度の飯よりアートが好き」で、国内外の舞台を中心に、アートをテーマに取材・執筆。ブロードウェーの観劇歴は20年以上にわたり、ブロードウェーの脚本家や演出家、俳優などにも現地で取材をしている。