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特集 (1)どんな思いで戦っていたのか。消化して演じたい

2016年9月23日更新
写真:藤岡正明=岩田えり撮影 藤岡正明=岩田えり撮影

――実は、私は「ミス・サイゴン」を新演出版を一度しか拝見したことがない超初心者なんです。クリス役に続いて、トゥイ役で出演される藤岡さんに、ぜひその魅力をお伺いできたらと思っております。どうぞよろしくお願い致します。

 「ミス・サイゴン」は、元々はベトナム戦争で実際に起こった事実をもとに作られているミュージカルです。ただし、登場人物は象徴として描かれていて、例えば、クリスのようなベトナム戦争で精神的に傷を負った人、キムのようなベトナム人でありながらアメリカGIとの間に子供ができて産んで、いろんな差別や迫害を受けながらも生きていった人、こういった人がたくさんいたんですね。だから、演じている我々もそうなんですが、すごく精神的に疲弊する作品ですし、何となく流し見はできないんじゃないかと思います。言い方が悪いですが、演者もテクニックでうまく立ち回ることのできない作品だなと思っています。だからこそお客さまに持って帰ってもらえるものがあるんじゃないかと。いい意味でも悪い意味でも、すごく重い作品なんです。

――確かに拝見したとき、感動とともに疲労感もありました。

 そうですよね。そのメッセージは、安易に戦争は悲惨という言葉だけではなく、もっと奥深い、なぜ戦争というものが悲惨だと言われつづけるのか、ひとつのストーリーのなかに違った視点から描かれる戦争の無残さ、戦争が生み出す悲劇があるんじゃないかと思っています。

――以前クリス役を演じたときにオーディションを受けたと思いますが、そのときは作品について知っていましたか?

 見たことはあったのですが、そんなに詳しくは知らなかったです。でも、やりがいもあって面白い役で、自分に合っているんじゃないかと思い、オーディションを受けたいと思いました。

――クリス役を演じて作品の魅力を体感された思いを持って、今回新たにトゥイ役に挑むという心境なんでしょうか?

 いえ、まったく違いますね。もちろん前回クリスとして出演させていただいたときに、ベトナム戦争について、映画、本、ドキュメンタリー動画をたくさん見て色々と調べ、自分なりにベトナム戦争というものを知らないといけないと思って挑んだのですが、クリスはアメリカ側の人間で、たくさん資料もあったんです。証言もありましたし、調べればいくらでも情報を得ることができました。

 ところが、トゥイを演じるにあたって調べてみると、北ベトナム、あるいは通称ベトコンといわれる南ベトナム解放民族戦線、南ベトナムにいながら北ベトナム側の思想を持って南北の統一を強力に推し進めていった人々の側から描かれている映画は、ほぼ皆無です。あっても今は上映されていないですし、DVDもないと思います。

――そこが全く違うんですね。

 北ベトナム側の、社会主義国家側の思いや体験談や映像などを探して見ているのですが、本当に少ないです。前回はアメリカ側だけの資料を見ていれば、自分の役づくりには支障がありませんでしたが、今回はそういうわけにはいきません。でも、僕自身がこの役を演じるにあたって、どんな歌い方をしようが、セリフの言い回しをしようが、どんな衣装を着ていようが、どんな名前であろうが、絶対にここだけは死守したいと思っているのは、実はその部分なんです。南ベトナム解放民族戦線側の人々が、どんな思いで戦っていたのか。

 「ミス・サイゴン」は西洋人が作っている作品です。イギリスのカンパニーが作っている作品ですし、オリジナルプロダクションの名前にはほとんど東洋人の名前は出てこないんです。そのカンパニーで作ってきた作品だからこそ、良い面も悪い面もあると思います。前回出演したときに、演出家がどこかで東洋人の思想を理解できていないんじゃないかという思いがあり、そこにフラストレーションもありましたが、アメリカ兵だったから大丈夫でした。でも、今回はそうはいかないので、消化して演じたいと思っています。

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