マイコンテンツ

ここから本文エリア

特集 (1)事件の背後に、現代にも通じる社会問題を見いだす

2016年9月28日更新
写真:「BLOOD RELATIONS ~血のつながり~」公演から〈Doomチーム〉=劇団スタジオライフ提供 「BLOOD RELATIONS ~血のつながり~」公演から〈Doomチーム〉=劇団スタジオライフ提供

 冒頭から、過去の殺人を疑う「女優」(松本、久保)と、疑われるリッヅィー(青木)の深読みしたくなるセリフの応酬に引き込まれる。流れるようなルーチンワークで紅茶を注ぎ、「女優」の質問をかわすリッヅィー。おそらく何度も何度も繰り返してきたであろう風景だが、その日は違った。リッヅィーは「女優」に、そんなに気になるなら、私になりきって考えてみたら?と問う。そうしたら、あなたも真実にたどり着くことができるかもしれないと。

 うまい仕掛けである。リッヅィーは、自身が殺人を犯したか否かではなく、殺人を犯していたとしたらそれはなぜか、事件の背景へ「女優」と観客を誘う。そこには、高圧的な父アンドリュー(藤原啓児、倉本徹/Wキャスト)と、生活のために父と結婚し金に執着する継母アビゲイル(石飛幸治)、両親に気を使いながら生きる姉エンマ(大村浩司、楢原秀佳/Wキャスト)という、家父長制の縮図である一家があった。そこで、結婚をせず自立を望むリッヅィーは非常識で異質な存在でしかなく、家族との衝突が絶えず精神的に追いつめられていく。ある日、継母と叔父(緒方和也、奥田努/Wキャスト)の策略により、自身が相続するはずの遺産を奪われると知ったリッヅィーは、狂気の行動に出る。

 事件の背後にある、女性は仕事をせず、結婚して家を守るのがあたり前という女性差別が当然だった社会。そして、リッヅィーと「女優」の親密な関係や、リッヅィーとアイルランド人医師パトリック(山本芳樹、曽世海司/Wキャスト)との交流を家族に非難されることから浮かび上がる、性的マイノリティー差別や、宗教・人種差別の問題。センセーショナルな側面で語られてきた事件の背後に、現代にも通じる社会問題を見いだしたカナダの劇作家にして演出家シャロン・ポーロックの洞察力に驚く。その戯曲を観客に深読みさせる余白を残して訳した吉原豊司の日本語台本と、その世界をさらに増幅した倉田淳の演出によって、本作一級のサスペンスであり社会派ドラマとなった。

戻る 続きを読む